不眠症とは?
不眠症の国際的な診断基準をみると、
『普通の睡眠環境で、日中に何らかの影響があって、睡眠のことで困っていること』
となっています。つまり、不眠症とは「十分な睡眠が取れず、生活や心身に何らかの支障を及ぼしている状態」です。
誰しも「眠ろうとしてもどうしても眠れない」という不眠体験をもっています。心配事がある時・試験前日・旅行先などさまざまな原因がありますが、通常は数日から数週のうちにまた眠れるようになります。
しかし時には不眠が改善せず1ヶ月以上にわたって続く場合があります。不眠が続くと日中にさまざまな不調が出現するようになります。倦怠感・意欲低下・集中力低下・抑うつ・頭重・めまい・食欲不振など多岐にわたります。
具体的に「何時間以上眠れなければ不眠症」「特定の症状がおこらなければ不眠症とは言えない」というわけではなく、
1. 長期間にわたり夜間の不眠が続き 2. 日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下する |
この2つが認められたとき「不眠症」と診断されます。
不眠症と睡眠不足の違い ただ、睡眠が十分にとれていない原因が多忙など「寝る暇がない」ことによるなら不眠症とは言えず、それは「睡眠不足」ということになります。
不眠症は、「眠ろうとしているのに、上手く眠れなくなった」「寝る時間はあるのに、自分で望むような睡眠が取れなくなった」「特別な要因が見当たらないのに、最近眠れなくなった」などと感じて困っている状態を指しています。
不眠症のタイプ 不眠症は4つのタイプに分けられます。寝つきの悪い「入眠障害」、眠りが浅く途中で何度も目が覚める「中途覚醒」、早朝に目が覚めてしまう「早朝覚醒」、ある程度眠ってもぐっすり眠れたという満足感(休養感)が得られない「熟眠障害」です。
不眠症の原因 不眠症の原因としては、大きく以下の5つがあります。
1.精神疾患(こころの病気)
多くのこころの病気は不眠を伴います。近年は、うつ病にかかる人が増えています。単なる不眠だと思っていたら実はうつ病だったというケースも少なくありません。「早期覚醒」と「日内変動(朝は無気力で夕方にかけて元気がでてくる)」の両方がみられる場合には早めに専門医を受診してください。
2.身体疾患からだの病気
高血圧や心臓病(胸苦しさ)・呼吸器疾患(咳・発作)・腎臓病・前立腺肥大(頻尿)・糖尿病・関節リウマチ(痛み)・アレルギー疾患(かゆみ)・脳出血や脳梗塞などさまざまなからだの病気で不眠が生じます。また睡眠時無呼吸症候群やムズムズ脚症候群(レストレスレッグス症候群)など、睡眠に伴って呼吸異常や四肢の異常運動が出現するために睡眠が妨げられる場合も珍しくありません。
不眠そのものより背後にある病気の治療が先決です。原因となっている症状がとれれば、不眠はおのずと消失します。
3.お薬の副作用や刺激物
治療薬が不眠をもたらすこともあります。睡眠を妨げる薬としては降圧剤・甲状腺製剤・抗がん剤などが挙げられます。また抗ヒスタミン薬では日中の眠気が出ます。コーヒー・紅茶などに含まれるカフェイン、たばこに含まれるニコチンなどには覚醒作用があり、安眠を妨げます。カフェインには利尿作用もあり、トイレ覚醒も増えます。
4.生理的な原因
・生活リズムの乱れ…交替制勤務や時差などによって体内リズムが乱れると不眠を招きます。現代は24時間社会といわれるほどで昼と夜の区別がなくなってきていますから、どうしても睡眠リズムが狂いがちです。
・環境…騒音や光が気になって眠れないケースもみられます。また寝室の温度や湿度が適切でないと安眠できません。
5.心理的な原因(ストレス・緊張)
ストレスと緊張はやすらかな眠りを妨げます。神経質で生真面目な性格の人はストレスをより強く感じ、不眠にこだわりやすく、不眠症になりやすいようです。
不眠症は一つの病気ではありません。大部分の不眠症にはそれぞれ原因があり対処法も異なります。
精神疾患や心理的な原因があれば、その治療や心理的な葛藤の解消が必要になってきます。生理的な原因であれば、睡眠によい生活習慣などを意識していくことが必要になります。
その一方で、身体やお薬が原因であれば、その原因を取り除く必要があります。そして睡眠時無呼吸症候群や特殊な睡眠障害が関係していることもあります。
このように、不眠の原因はストレスだけでは片付けられず、心と体が影響しあって表れている症状になります。患者さんごとにそのウエイトは異なります。ですから心身の両面から原因を考えていく必要があります。
病院に行くのなら 不眠症は精神科や心療内科が専門になります。
鍼灸院での治療 鍼灸治療は、心身をリラックスさせるためにとても有効な治療法です。
鍼治療は、固くなってしまった筋肉が皮膚表面になくてもダイレクトに刺激をすることができるので、筋肉の緊張を緩めるのに高い効果を発揮します。緊張してしまった筋肉を緩めることで血流を改善させることができます(不眠に苦しんでいる方は、特に首・肩・背中に凝り・張り感を訴える方が多いです)。体の緊張がほぐれることや手先足先の末梢の血流が改善されることで自律神経機能を向上・安定化させることができます。自律神経機能が改善されることにより心の緊張感も緩みます。これらの効果により、心身をよりリラックスした状態にさせることで、睡眠の質・量を向上させることができるのです。
仕方なく長年睡眠導入剤や抗不安薬を使い続けている方も多いと思います。鍼灸治療で体の状態をより眠りやすくすることで、減薬の反動がないように徐々に薬の量を減らしていくことができます。これにより、これから起こるかもしれない症状の悪化(薬が増えることを含む)を未然に防ぎ、より健康的な状態を目指すことができます。
「人間の本来持っている自然治癒力を高める」「より良い状態にする」「悪くならないように(予防的に)治療する」ことのできる鍼灸療法であれば、当面の不眠状態の改善と同時にその原因となる疾患・症状の治療もできます。
不眠でお悩みの方へ 不眠対処の第一歩は、先に挙げたようなさまざまな不眠の原因を診断し、取り除くことです。それに加えて自分流の安眠法を工夫することが効果的です。安眠のためのコツを以下にまとめました。
1.就寝・起床時間を一定にする
睡眠覚醒は体内時計で調整されています。週末の夜ふかしや休日の寝坊、昼寝のしすぎは体内時計を乱すのでご注意を。平日・週末にかかわらず同じ時刻に起床・就床する習慣を身につけることが大事です。睡眠時間にこだわらない睡眠時間には個人差があります。「◯◯時間眠りたい!」と目標を立てないでください。どうしても眠気がないときは思い切って寝床から出てください。寝床にいる時間が長すぎると熟眠感が減ります。日中に眠気があるときは午後3時前までに30分以内の昼寝をとると効果的です。
2.太陽の光を浴びる
太陽光など強い光には体内時計を調整する働きがあります。光を浴びてから14時間目以降に眠気が生じてきます。早朝に光を浴びると夜寝つく時間が早くなり、朝も早く起きられるようになります。すなわち「早寝早起き」ではなく「早起きすることが早寝につながる」のです。逆に夜に強い照明を浴びすぎると体内時計が遅れて早起きが辛くなります。
3.適度の運動をする
ほどよい肉体的疲労は心地よい眠りを生み出してくれます。運動は午前よりも午後に軽く汗ばむ程度の運動をするのがよいようです。厳しい運動は刺激になって寝付きを悪くするため逆効果です。短期間の集中的な運動よりも、負担にならない程度の有酸素運動を長時間継続することが効果的です。
4.自分流のストレス解消法を
音楽・読書・スポーツ・旅行など、自分に合った趣味をみつけて上手に気分転換をはかり、ストレスをためないようにしましょう。
5.睡眠前にリラックス
睡眠前に副交感神経を活発にさせることが良眠のコツです。ぬるめのお風呂にゆっくり入り、好きな音楽や読書などでリラックスする時間をとって心身の緊張をほぐします。半身浴は心臓への負担も少なく、副交感神経を優位にさせ、睡眠の質を向上させてくれることが分かっています。
6.快適な寝室づくり
眠りやすい環境づくりも重要なポイントです。ベッド・布団・枕・照明などは自分に合ったものを選びましょう。温度や湿度にも注意が必要です。睡眠のための適温は20℃前後で、湿度は40%-70%くらいに保つのが良いといわれています。